今回は、ニュース6で何度も伝えてきた広島県の「ドクターヘリ」導入についてです。私が番組で伝え始めたのは今から3年ほど前。ヘリ導入に向けて本当に動き出すのかどうかわからない状況のころでした。なぜ取材を始めたのか…。
阪神大震災の時、上空を飛び交うヘリコプターの映像を見て、なぜもっと救出活動に使えないのだろうと疑問を抱いたのを覚えています。(実際、国内のドクターヘリ導入への動きは、そういう素朴な疑問から加速していったと聞きます)その後、各県で導入が進んでいる中、私がニュース番組を始める前の9年ほど前、地元紙の記事に「広島県、ドクターヘリ試行」という文字を見つけ、いよいよ始まるのか…と思い、私の中ではそのままになっていました。
それから時は過ぎ、3年前、県庁の記者クラブに毎日出入りしていたころ、一枚のリリースが回ってきました。そこにはこう書いてありました。「ドクターヘリ“的”事業の医師看護師による研修会」。なんだろうこの「的」という文字は?そう感じていろいろ調べると、他県が行っているドクターヘリ事業とは、異なる運用が見えてきました。
ドクターヘリとは緊急に高度な医療が必要とする患者のために、医師と看護師が乗り込んで救急現場に向かい、いち早く患者と接触して初期治療を始めるというもの。そのことにより、救命率を上げる狙いがあります。一般にドクターヘリの定義では、出動要請後、3分から5分程度で、そばに待機している医師・看護師を乗せて離陸するものとありました。
しかし広島の場合は3分から5分では現場に向かえないのです。広島は西飛行場(当時)や広島空港に待機している、消防・防災ヘリを使用していました。要請を受けて飛び立った後、いったん病院へ向かい、医師・看護師を乗せて現場に向かうのです。だから「的」という文字がついているのです。
ドクターヘリであった場合と広島の「的」の場合の現場到着までの時間差は平均18分です。
緊急に高度な医療が必要な患者のためには、1分1秒が大事なことは言うまでもありません。この時間差で助かる命はまだあったはずです。また、そもそも消防・防災ヘリには、ドクターヘリ的な活動以外に、本来の消防・防災の任務もあるため、いつでもドクターヘリ的事業のために準備をしているわけではありません。
そういった理由で、年間出動件数が、近隣の岡山と比べ10分の1少ない状況でもありました。(ただもちろん“的”事業で助かった命もあり、またこの“的”事業があったからこそ、今回のドクターヘリ事業への移行は比較的スムーズだったことは付け加えたいと思います。)
そんな事情もあり、これまで財政的な事情などで、専用の「ドクターヘリ」導入を見送ってきた「県」もようやく重い腰を上げて、導入へと舵を切りました。
導入によって県内の医療はもとより、県境を越えた連携を進めることで、ドクターヘリは県外からも、あるいは県外へも現場に向かい、少しでも救える命をすくい上げるために活動していくことでしょう。
なにより現場で働くフライトドクター、フライトナースは使命感に燃えています。
広島の場合は、広島大学病院と県立広島病院の医師・看護師が参加するのですが、病院の垣根を越えて、連携を深めています。
また日本医科医大学千葉北総病院での研修の様子も取材させていただきましたが、現場でイニシアチブがしっかりとれる医師・看護師になって、広島でもいいドクターヘリ事業が行えるように、そしてそういう仲間ができる事を期待していました。
番組でもお伝えしましたし、初めて出させてもらった「イマなま」でもお伝えしましたが、決してこれで広島の遠隔地医療が賄えるわけではなく、これからもすべての根底である医師不足の解消を進めていかなければなりません。
その上で、このドクターヘリというツール、道具をいかに生かしていくか、ということにかかっていると思います。
5月1日から本格運航の予定です。今後の安全で、実のあるフライトを祈りたいと思います。